東京地方裁判所 平成11年(ワ)11144号 判決
原告 A
被告 B
右訴訟代理人弁護士 伊藤芳朗
同 伊東大祐
同 小泉妙子
同 北村聡子
同 日野修一
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一二〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
原告は、主位的には、被告との間で、ダイヤルQ2(情報料回収代行サービス)回線を利用してインターネットに接続した利用者に対して、プロバイダーがサーバーに搭載している画像情報を提供し、その利用代金をNTTが代行して徴収し、プロバイダーの銀行口座宛て送金するというシステム(以下「本件システム」という。)の運営管理業務を委託する契約を締結し、右委託業務の対価として被告に一二〇〇万円を支払ったが、被告には債務不履行があるとして、予備的には、被告との間で、本件システムに使用するサーバーについての売買契約を締結し、その代金として被告に一二〇〇万円を支払ったが、右売買契約は錯誤により無効であるとして、原告が被告に支払った一二〇〇万円と遅延損害金の支払を求めたのが本件事案である。
これに対して、被告は、一二〇〇万円を原告から受領したことは認め、これは右サーバー(ダイヤルQ2の事業開設及び電話加入権の代金を含む。)の売買代金であると主張するが、いずれにしても原告の請求は不法原因給付に該当すると主張している。
第三判断
原告と被告との間で本件システムに関連して何らかの契約(以下「本件契約」という。)が締結され、原告が被告に対して一二〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがないところ、本件契約がいかなる内容のものであるかについては争いがあるが、いずれにしても本件契約は公序良俗に違反した無効なものであり、したがって、原告が被告に対してした右支払は不法原因給付に該当すると被告が主張するので、まずこの点について検討することとする。
甲一、二、一七、一八号証、乙一、三、四号証、原、被告各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成八年八月ころから、本件システムを利用した事業(以下「本件事業」という。)を営むようになり、これによって高収益をあげるようになっていたこと、平成九年二月ころには、被告の知人であったC(以下「C」という。)及び同人の知人であった原告が、被告が用意した中に大量の画像が保存されているサーバーを利用して、本件事業と同様の事業を営むようになったこと、原告は、このように、本件契約を締結して一二〇〇万円を被告に支払ったが、これは、原告が永年勤めた会社の退職金の中から用立てたものであったこと、ところで、本件システムにおいて、サーバーに搭載されている画像は、女性の性器や男女の性交場面を写したわいせつな画像であったこと、もっとも、右画像には、いわゆるマスク処理が施されてはいたが、別途インターネット上で入手することが可能なソフト(FLマスク)を用いることによって容易にこれをはずすことができたこと、被告が原告との間で本件契約を締結するに際しては、被告は、右のような画像やマスク処理をはずす操作についても実際に見せた上で、本件システムの内容についての説明をしたこと、原告及び被告らは、画像にはマスク処理が施されており、画像を見る側がこれをはずす処理をすることとなることなどから、本件事業が違法行為に当たるとまでは認識していなかったこと、しかるに、本件事業と類似した事業をしていた者が警察に逮捕されたとの情報を得たので、被告は、本件システムにおける画像のマスク処理を三重にすることとしたが、原告やCは、高収益をあげるために、そのような対処をするということもなかったこと、被告は、平成一〇年五月ころ、本件事業にかかるわいせつ図画公然陳列罪で警察に逮捕され、その後同罪で執行猶予付きの有罪判決を受けたことが認められる。
これに対して、原告は、被告から、画像のマスク処理をはずすことはできないという説明を受けたなどと供述(本人尋問)するが、その供述自体あいまいであるし、具体的にどのような説明を受けたかについてははっきりとした記憶がないというのであって、前掲各証拠に照らしても、このような原告の供述を採用することはできない。
そうすると、原告と被告との間で締結された本件契約は、わいせつな画像をインターネット上で閲覧可能な状態に置き、収益をあげることを目的としたものであり、原告もそのような本件システムの内容について認識していたことは明らかであるから、公序良俗に違反した無効なものであるといわざるを得ないし、原告が被告に対してした一二〇〇万円の支払は不法原因給付に該当するというべきである。
これに対して、原告は、被告が本件事業への参加を積極的に勧めたなどとして、被告の方が不法性が大きい旨主張するが、右認定事実によれば、そのような事情を認めることはできないし、他にそのような事情を認めるに足る的確な証拠は存しない上、本件全証拠によっても、被告の不法性の方が原告に比して大きいとまで認めることはできない。
したがって、原告の右のような主張を採用することはできず、結局のところ、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。
(裁判官 土田昭彦)